199X年。
世界は、暴力が支配する混沌の時代に・・・っ!
なりませんでした!
そして時代は流れ世紀末から新世紀21世紀へ、時は20XX年。
世の中はとっても平和、警察は元気に活躍中だ。特に世界に名だたる経済大国・日本などは欠伸が出るほど緩く、平和な放置国家。
当然、秘孔を突かなきゃならないほど悪い人もいなけりゃ、斬り刻まなきゃならないほどの外道もいやしない。
そんな世の中にあって、戦乱の世紀末に覇を唱えるはずだった北斗、南斗の超人伝承者たちは完全に目的を見失い、訪れた平穏で過酷な世の中を強く、逞しく、嘆かわしく生きていくしか無かった・・・。
しかし、そんな平和な世に世界征服を目論む悪の組織が起こった。
コン、コン、
「入りたまえ」
「はっ!失礼します!お呼びでしょうか?サラマンダー社長」
ドアをノックして自室に入ってきた銀髪の青年、踵を正して畏まる彼に、ゆっくりと向き直ると、正面の大きな椅子に腰掛けたサラマンダーと呼ばれた赤髪の男性はゆっくりと口を開いた。
「キミは、丕佐渡広樹(ぴさどひろき)くんだったね?」
「ハイ!覚えて頂き、光栄です。ピーサードとお呼び下さい。本年度より、入社致しました!」
「ん、では、もう我が社の入社儀礼は受けたのだな?」
「ハ!受けさせて頂きました」
「じゃあ、キミももう暗黒魔法が使えるわけだ」
「勿論です!この度ザケンナー部門に配属されました!」
ピーサード、と名乗った銀髪の青年は快活に答えた。
ここは東京・吉祥寺に社屋を構える芸能会社「ワルサーシヨッカー」、何を隠そう、彼等こそがこの新たな時代に世界征服を企む悪の組織なのだ。
社長サラマンダー・藤原(ふじわら)は、4年前のある夏の夜、ツアーで行った芦ノ湖付近で偶然、悪の魔法力の塊、ジャアクキングを手に入れてしまい、不思議な魔力を授かった。
一念発起し、脱サラして事業を興そうとしていた彼は、「スッゲェ、こんな不思議な力あったら世界征服とかできるんじゃねぇ?」と安易に画策。その魔力を用いてまずは日本芸能界を乗っ取ろうと事業を興し、様々な企画を立案させ、次々とヒット。数年で業界トップ成績の企業を造り上げた。
そして、自分の会社の社員や俳優、女優にはジャアクキングの魔法力を付与し、様々な作戦を実行に移し、徐々に芸能界を乗っ取ろうというのだ。
「うん、ケッコーケッコー!では丕佐渡くん・・もとい、ピーサードくん。キミに指令を与える、我々に反抗する例の輩がまた原宿のスタジオで活動を再開したらしい・・奇襲をかけて、徹底的に邪魔して意地悪して二度と我々に逆らう気を無くして上げなさい!成功すれば臨時ボーナスがでるよん♪」
「ハッ!おまかせ下さい!では、行って参ります!」
なんとも中途半端でいい加減な命令にも、新入社員のピーサードくんは元気に返事した。
平和で緩ーい日本で生まれた、緩〜〜い悪の芽・・しかし、今!そんな彼等を阻止すべく立ち上がったのは、世紀末救世主・北斗神拳伝承者!
・・・ではなく、光の魔法力をもつ美少女アイドル戦士たち!可憐に、優雅に、愛らしく悪に立ち向かう。これは、そんな少女たちと半端な悪党、彼女らを見守る先生たち。そして・・時代に取り残された世紀末の漢達が繰り広げる、愛と友情と、汗と涙と笑いと躾を描いた、日々のドラマである。
「響ーッ!何してるの?置いてっちゃうわよぉーっ」
「ち、ちょっとまってよ、今行くからぁー、パパぁーっアタシのリボンどこぉー?」
ここは東京・加音町(かのんちょう)にある住宅街。北条邸の玄関からはこの家の一人娘、響と、幼馴染みの南野奏の声が聞こえる。
時刻は午前8時10分。
玄関には腰に手を当て、コツコツと靴先を鳴らす奏の姿。明らかにイラついている様子だ。
その背後には苦笑を浮かべている友人と思わしき少女達の姿が、5人程見える。
どうやら今日は予定があって、その待ち合わせの時間に響が遅刻しているようだ。皆、響待ちなのだろう。
「まったく、響ったらちゃんと7時にモーニングコールして上げたのに二度寝なんてしちゃうんだから、夜更かしなんかするから大体・・」
「ホント、マジメにコールしたアタシたちがバカみたいじゃん!」
「ま、まぁいいじゃないですか奏ちゃん、そんな大した時間じゃないですし・・」
「そうだよ。僕ら待つの辛くないし」
「でもぉ、人待たせるって確かにデリカシーに欠けるって言うかぁー・・」
「えりか、あなたが言えたセリフじゃないでしょ?今日だってつぼみが起こしてくれなきゃ遅刻確実だったくせに・・」
後ろでそんなやり取りが聞こえる。
奏とともに響に非難の声を上げた黒髪のロングヘアの少女は黒川エレンと言う。奏、響のクラスメートである。奏をなだめている、紅髪に眼鏡姿の少女は同級生の花咲(はなさき)つぼみ、隣で笑顔を作っているブラウンのショートヘアの女の子は明堂院(みょうどういん)いつきである。
大してその後ろでデリカシーがどうのと言っていたのはつぼみやいつきのクラスメートである来海(くるみ)えりか。ウェーブがかった蒼みがかったロングヘアーが特徴のやや小柄な少女だ。その少女に厳しいツッコミを与えたのは高校生くらいの一番歳上であろう、眼鏡をかけた少女。こちらは他の3人の少女達とは違った落ち着きがある。
月影(つきかげ)ゆり、彼女達のお姉さんのような存在で、17歳の女子高生だ。皆そうまでして何故響を待っているのか?それは・・・
「おっまたせーっ!」
待ち合わせから15分たった頃、やっと支度を終えた響が階段から飛び降りてきた。
玄関に・・・
「ったく、すっかり遅れて、一体今何時だと・・って、きゃあーっっ」
「ぅわあぁっっちょっとアブナイってばぁー!」
そう、正に跳躍してきたのだ。階段から玄関まで。当然玄関下に待っていた奏に向かって突進した形になった。
そのままお互いビックリ仰天して激突!
・・とはならなかった。
ぽふっ。と予想に反して軽い音。
体も別段どこも痛くない、響も奏もギュッと瞑った目をそー・っと開けた。
瞬間、響の顔がひきつった。響を抱き抱えた藤田麻美耶が怒ったような、呆れたようなメッという顔を向けていた。
「あ・・アハハ・・・マミヤ先生、さんきゅ♪」
「響、先生落ち着きなさいって、いつも言ってるでしょ?」
「ぶーっ、だってぇー」
膨れっ面をする響のオデコをツンとつつくマミヤ。
「やぁ、マミヤ先生、いつもありがとう。今日も響のこと宜しくお願いしますね」
「おはようございます北条先生。ハイ、お預かりします」
奥から現れた赤髪の優男風の男性にマミヤは軽く会釈した。
彼こそ、響の父にして、私立・愛治学園の音楽教諭、そして世界的に有名な天才音楽指揮者、北条団であった。
絶対音感を持ち、日本人でありながら世界に名だたるウィーン国際芸術楽団を指揮し、数々の名演奏で大観衆を興奮と感動のるつぼに捲き込んだ。
その技術は正に神業という他はなく、多くの批評家たちをして、「音楽の魔術師」、「東洋のモーツァルト」と賞嘆された。妻も世界的に有名なヴァイオリニスト、北条まりあ。夫婦でコンサートを開いたこともしばしば。
つまり、響は音楽家のサラブレッドなのだ。しかし、本人は目下のところスポーツが大好きなようだが・・・
「ニャップニャプー!」
響が玄関から出ようとした時、奥から真っ白な子猫が駆けてきた。
「あっ!ハミィ」
「おや?ハミィも一緒に行くかい?」
「ニャーン♪」
「響、ハミィも連れてってあげたら?」
「えぇー?でもぉ・・」
「いいじゃないか響、な?」
パパにウィンクされて、響は渋々「わかった・・」と答えた。
ソレを聞いたハミィが素早く響の肩に乗る。
しかし、その直後、この子猫と響の間でちょっとした小競り合いがあったことは父には見えてなかった。
「じゃあ、行ってきまーす、パパぁーっ!」
「先生の言うことちゃんと聞くんだよぉー」
元気に手を振り遠くなっていく愛娘に、いつまでも見守っていた。
「あーあ、ついてないなぁ、せっかくの土曜日なのにプリキュアのお仕事なんて・・」
「仕方ないじゃない、前から決まってた予定でしょ?」
「奏はマジメだよねぇ、先生アタシ遊びたかったー」
「お仕事が終わったらね」
そう奏とマミヤに言われてしまい、また膨れる響。
そう、彼女らは高校生であるにも関わらず、仕事をしているのだ。
つぼみたちは、言わば同級生と同時に仕事仲間。どんな仕事かと言うと・・・
「でもさぁー、ぶっちゃけアタシも響とおんなじ気持ちなんだよねぇー、せっかくガッコー休みなのにさぁ、やってらんないってカンジー」
「だよねぇー♪」
「なぁーに言ってるニャーっ!」
「「きゃあーっっ」」
突然、意気投合した響、えりかを叱りつけたのだ。
ネコが。
「な、なぁによハミィー」
「ビックリしたぁ・・」
「響も奏もプリキュアとしての自覚が足りないニャ、そんなコトじゃダメダメニャ」
なんと、子猫が人の言葉をしゃべり、説教を始めたのだ。人間の女の子に。
一般人であれば、驚愕、ヘタをすれば卒倒せんばかりの異常事態。しかし、奏以下、マミヤを含めた一同は特に驚く様子もなく、慣れた、という感じである。
「だってさぁ」
「アタシたち女子中学生だよ?色々遊びたい時期なのにー」
「何言ってるですかー!えりかたちプリキュアには大事な使命があるですー!」
「そうですー!じゃないとシヨッカーがまた悪さをするですー!」
「そうでしゅ!たいへんでしゅー!」
ハミィに呼応する形で、今度はつぼみ、えりか、いつきの鞄に張り付いていたぬいぐるみが突然動いて騒ぎ出した。
何から何まで訳のわからない光景。一体彼らは何者か?
「プリキュアをサボったらまたシヨッカーの奴等がテレビの世界を乗っ取るですぅ!それだけはダメなんです!シプレたちの国フェアリーランドから落ちたジャアクキングを暴れさせてはいけないんですぅ!」
「〜っ、わかったわよぉ、ハミィだけじゃなくシプレもコフレも、ポプリまでうるさいんだから・・・」
この一見ぬいぐるみの三体、この人間界の存在ではない。ハミィも含めて別の異世界、フェアリーランドからやって来た妖精なのだ。平和な国、妖精たちが暮らすフェアリーランドに起こった大事件。
封印されていた悪い精神体ジャアクキングが事故によって突如、封印所を破り、人間界に落ちてしまったのだ。
ジャアクキングは拾った者の心を悪戯するよう支配してしまう。
この一大事に妖精たちは一丸となり、事態の収拾に人間界に急いだ。
しかし、時すでに遅し。サラマンダー・藤原という男によって、ジャアクキングは拾われており、「ワルサーシヨッカー」という会社が出来てしまっていたのだ。
それを止める事ができるのは、伝説の少女戦士、プリキュアだけ。
妖精たちは、ある人間を通して、アイドルグループ、「PCA21」を組織、そのメンバーが響たちなのだ。
そう、彼女らの仕事とはアイドル・プリキュアである。アイドルのお仕事をしながら、ワルサーシヨッカーの様々な悪企みを解決というのがその任務なのだ。
中途半端な目的をもった悪党をやっつけるアイドル・・・
世は限りなく平和だった。
「あ!ねぇねぇ、ケンシロウ先生も誘おうよ!」
突然車の後部座席にいたえりかに、響が言った。
「へ?ケン先生?なんで?」
「だってぇ、ケンシロウ先生チョー面白いもん!ねぇいいでしょ?マミヤ先生ー」
「響、拳四朗先生だって今日はお休みよ?無理言っちゃ悪いでしょ?」
「いいじゃん!アタシたちはお仕事なんだし不公平だよ!ねぇ、えりか」
「うんうん、アタシもケン先生来てくれるならバリバリ気合い入っちゃう!お願い、マミヤ先生!頼んでみるだけでいいからさぁー」
我儘娘2人の主張に、マミヤは(いいのかなぁ?)辟易しながらも、
「まぁ、それくらいならいいか」と、車を寄り道させた。
時は20XX年。
半端な悪党とアイドルが活躍する、平和な世の中だった。
「うわぁ〜〜・・スゴ・・」
「ココが・・・ケンシロウ先生のおウチ?」
目の前にそびえる年季の入ったボロアパートを見て、いつきとエレンが声を漏らした。
まだ13、4歳、平成真っ只中に生まれた彼女らにしてみれば眼前の昔の映画でした見たことないような昭和丸出しの木造アパートは新鮮かつ衝撃的だった。
「あべし荘」。
かたがった看板にはこう書かれていた。
「おーい!ケンシロウ先生〜っ!」
響がアパートに向かって大声で呼ばわった。
しかし、返事はなく、シーン・・としている。
「アレ?留守かな?」
「あれぇ?響ちゃんじゃないか。どうしたの?こんなトコで?」
急にアパートの2階の窓が開いて、見知った顔の青年が顔を見せた。
「あっ!バットさん、どうしてこんなトコに?」
「どうしてって、ココに住んでるんだよ。ちょっと待ってな。」
そう言うと、バットは素早く階段を降りてきた。
「なんだマミヤさんもお揃いで、今日は何?」
「あの、私達、霞先生に会いに来たんですが・・」
「そうなの。このコ達が、プリキュアのレッスン、ケンに付き合って欲しいって・・」
「はぁ?アイドルの仕事にケンを?なんでまた・・」
「だってケン先生チョー面白いじゃん、何て言うか・・・ド天然って感じで!」
「そうそう、アレは癒しキャラだよね!」
えりかのド天然キャラはわかるが、癒しキャラとの言葉に、バットは(そうかぁ?)と首を捻った。
「ところで、ケンシロウ先生と一緒のトコに住んでるんですよね?バットさん」
「ああ、お隣さんだよ」
「今は霞先生はお留守なんですか?」
「・・・いや、中庭の方にいるけど・・布団担いでまた何してんだか・・」
そう言いつつも、共同の中庭に一同を案内するバット。
空は快晴、鳥は歌い、近所の子どもたちの歓声がチラホラ聞こえる。
穏やかで平穏な土曜の午前である。
そして、
「はぁぁーー・・・・」
ザワ ザワ ザワ ザワ
!
「アタタタタタタタタァーーッ!」
目の前の布団に向かって、その筋肉の鎧を纏った男が怪鳥音を叫び無数の拳を浴びせかけた。
その光景を見て、バットは(アレが布団叩きーっ!?)と心の叫びを上げ、響や奏たちは立ち上った煙に(スッゴいやり方、メッチャホコリ出た・・・)と唖然とした。
「北斗・百裂拳・・・」
暴虐と混沌が渦巻く世紀末の世に、救世主となるはずだった男は、訪れた泰平の世に、北斗神拳を持て余していた・・・。
「おーい!ケンシロウ先生〜っ」
「む?」
ケンシロウが突然上がった声の方に目を向けると、北条響と来海えりかが、笑顔で手を振っていた。
「何?アイドルの仕事?」
「そう、この子達ウチの学園に通いながら、PCA21(ピー・シー・エー・トゥエンティーワン)ってアイドルの仕事してるの。最近じゃテレビにも出てるのよ?それで、どうしてもケンにレッスンを見てもらいたいって言うもんだから・・」
「わかった。俺でよければ力になろう」
「ヤッタぁ〜〜〜〜♪」
「イエ〜〜イ♪」
ケンシロウの答えに響もえりかも喜びの声、顔を見ればいつきや奏、つぼみも嬉しそうである。
「で、結局なんで俺までついてきてんだ?」
巻き込まれた形で車に乗らされたバットが助手席で呟く。
「ごめんなさいね、バット、成り行きで巻き込んで」
「本当に、すみません」
マミヤとゆりが謝るが、すぐに笑顔で、「今日はたまたま休みだったから大丈夫」と言うバット。
「ところで・・」
不意にケンシロウはぬいぐるみのフリをしていたシプレと、猫になりきっていたハミィを持ち上げ言った。
「このぬいぐるみのような奇妙な動物たちは、なんだ?」
「「「「「「え?」」」」」」
6人の叫びが重なった。
『ええぇぇ〜〜〜〜っ!!?』
「し、シプレたちがわかるですか?」
「ああ」
唖然。
人間の言葉で問いただすシプレにも、ケンシロウは些(いささ)かも動じなかった。
「な、なんでニャ?なんでわかったニャ!?」
「ほ、ホント!どーしてどーして!?」
興奮するハミィと響に、ケンシロウはゆっくり言った。
「人や動物、地球上に住むあらゆる生物には等しく『気』が備わっている。北斗の奥義とは気の流れを読むことにあり。彼等の持つ気は、人間にも動物にもない気だ」
「・・・ケンシロウ先生って・・・」
「・・・なんか凄いです」
呆気にとられたまま、エレンとつぼみが呟く。
「あ、あの・・ね、ケンシロウ先生・・このこと・・・」
「わかっている。何か事情があるのだろう、黙っておこう」
ケンシロウがそう答えたので、皆安堵の表情を浮かべた。
「な・・なんか、変わった動物なんだな・・」
「・・・慣れると可愛いわよ」
「・・なんでマミヤさんが教師と平行してアイドルマネージャーのバイトやってるのかと思ったが・・訳アリか」
事態の一部始終を見ていたバットは少々ひきつった顔だった。
「クックック、ここか、プリキュアのいるスタジオは・・」
新宿駅前の音楽スタジオ、「五車(ごしゃ)ミューズスタジオ」を物陰から見詰める青年、ピーサードは不適な笑いを浮かべていた。
「早速忍び込んで嫌がらせしてやろう!そして我がワルサーシヨッカーに楯突いたことを後悔するがいい!」
宅配員に化け、カバンを翳して言うその姿は、スパイというよりはバイト君であった。
「ハイっ!いいよぉーゆりちゃん、なぎさちゃん録りOKでぇーす!」
「ハーイ、お疲れ様!ゆり先輩」
「なぎさもお疲れ様。だんだんリーダーが様になってきたわね」
「なぎさなんかに勿体ないセリフだメポ!ゆりは甘過ぎメポ」
「こぉらメップル!オヤツあげないわよっ!・・・あ、アハハ///・・」
目の前で顔を赤らめて笑う少女に、ゆりも微笑む。
彼女は、美墨なぎさ。
ゆりより一つ後輩の高校1年生だ。
茶髪のショートヘアをウィングにしたヘアスタイルで、勉強は苦手だが、スポーツは大得意で食欲旺盛と響と似た性格。
だが、コチラは少し前まで、ラクロス部のエースだった。
さっぱりボーイッシュな性格だが、乙女らしい所もあり、顔立ちも文句なしのアイドル顔な美少女のため、ファンには絶大な人気がある。
少し前に、プリキュアのリーダーをゆりから譲り受け、新リーダーになったばかりだ。
一方なぎさに悪態をついていたのは、ハミィやシプレ達と一緒のなぎさのパートナー妖精、メップルだ。
「それじゃ、この後、響ちゃんとえりかちゃん、つぼみちゃんと奏ちゃんのダンスレッスン入りまーす。一時休憩でーす」
チーフの声で休憩に入る。
その時だった。
雑誌を読んでいた奏に声が掛けられたのは。
「すみませーん、南野奏さんいらっしゃいますかー?」
「あ、ハーイ」
奏に宅配員と思わしき青年から声が掛かった。
「お届けものです。」
「届け物?」
「ファンの方からみたいですよ?お開けになっては?」
宅配員からそう言われて、自分当ての荷物を確認して奏は思わず叫んだ。
「あっ!コレ・・」
自分が前から欲しかった最新型のiーpodだった。今度の誕生日にパパにおねだりしようかと思っていた正にその品だったのだ。しかし、奏は考える。
『ファンのプレゼントでも、何があるからわからない、先生に見せる前に開けては絶対にダメ』
それはPCA21の鉄の約束ルールだった。日頃耳にタコが出来るほど言われている。
もし、それを破ればどうなるか?奏が知る限り以前破っちゃったコは合わせて4人。中1の春日野うらら、同じ中2の夢原のぞみ、蒼野美希、そして響だった。
結果は恐ろしいものだった。
みんな教育係のマネージャー先生の膝の上で、パンツを脱がされ丸出しにされたお尻を、真っ赤っかに腫れるまで嫌という程叩かれ、涙が枯れるまで散々に泣いた。しばらく痛みは引かず、1週間ほどは皆まともに椅子に座れなかった。
それを考えて奏は怖気を振るった。
麻美耶聖拳。その痛みは奏も自分のお尻で経験済みだ。
「では確かにお渡ししましたので・・」
そう残して宅配員は楽屋をでた。1人箱を前に考える奏。
開けちゃダメ。ずっとそう考えていたが、響も収録中でいないこの部屋段々と少女の意思は誘惑に押し潰されて来た。
(開けちゃダメ)から(開けたい・・)に、そして・・・
「ちょっとくらいなら、いいよね」
ついに約束を破って箱を開けた。すると、
ピィーーッ!耳が痛くなる高周波音波が、部屋を建物中を満たした。
「!!・・なっ何?今の」
奏は周りを見回すが、別に大きな変化は無い。しかし、響とえりかが収録中の部屋には多大な影響が出た。
「そしてガンバランスでダ〜〜ンス♪そんでもってナーバスもリラ・・っ・あ、アレ?」
「いきなり音切れちゃったねぇーえ!プロデューサーさぁん、音切れちゃったよぉー」
「ゴメンねぇー、ちょっと待っててねぇ〜・・おい!ちゃんと調整しとけバカ!」
「調子悪いんですか?」
マミヤが音響調整中のアシスタントに近づく、すると彼から悲鳴が上がった。
「なんだぁ!?急にマイクもスピーカーも入らなくなったぞ!どうなってんだぁ!?」
収録室は大混乱。それどころか建物あちこちで電気系統がいかれ、復旧に大幅なタイムロスが出た。
「なんなんだろ?一体」
えりかが首を傾げて今起こってる問題を考える。
復旧出来るまで、小一時間かかるらしく、それまで待機という形になった、プリキュアメンバー。
大部屋の休憩室にみんなで集まっていた。
合流したなぎさ、マミヤ、バット、ケンシロウも一緒だ。
「困ったわねぇ、何が原因かしら?」
「わっかんないなぁ〜、ゆり先輩わかる?」
「ごめんなさい、急なことで私もちょっと・・」
マミヤになぎさ、ゆり、年上のお姉様集団が知恵を絞ってもわからなかった。
しかし、バットの次の言葉が、意外な突破口になった。
「・・・よく言われてるのは、音響機器が多い施設は、特殊な超音波が入るとイカれちまうって話だけどな」
「超音波?・・・!」
奏の顔がひきつる。
「?どうしたの?奏」
「え!?・・あ・・・う、ううん、なんでも!なんでも・・・ない・・・」
響の何気ない質問に、珍しく取り乱した様子の奏。
その様子を、マミヤは見逃さなかった。
「・・・奏、何か隠してるの?様子がヘンよ」
「えぇ!?・・そっそんなコトないっ!そんなコトないもん!!」
必死に言う奏だが、ますます怪しい。
「奏ちゃぁん、正〜直に言わないと・・・」
マミヤは手の平を口元にやり、ハァ〜〜・・・と息を吐きかけた。
その場にいた、PCAメンバー全員が、一斉にビクつく。
えりか、響などは反射的にお尻を抑えて後ずさる。その光景を見て、哀れ奏は半泣きになりながら、「ゴメンなさい・・」とか細い声で言うと、カバンから先ほど贈り物、と贈られてきた宅配便を手渡した。
「中に・・入ってたの、iーpodじゃなかったの・・・」
中から出てきたのは10cm大のパソコンのマウスのような機械だった。バットが調べる。
「間違いねぇ、高周波音波装置だ。端末も入ってるおそらく箱を開ける行為がスイッチになってるんだろうな」
「流石、北星(ほくせい)大学・工学部ね」
マミヤの言葉にからかうなよ、とバット。
「奏ちゃん、これ注文した覚えは?」
「・・ありません」
「じゃあ、何かわからない物を勝手に開けたのね」
マミヤの厳しい言い方。
奏はもう今にも泣きそうな顔で先生を見つめた。
もう怒ってる。
「先生、叱るのは後にしましょう?まずはこの装置の送り主を見つけないと」
さりげなく奏に残酷な宣言を突き付けるゆりだが、マミヤも「そうね・・」とまた考えこむ。
一体誰が何の目的で?そう考えた時、一同の中にある答えが浮かんだ。
『まさか!!』
「ハーッハッハッハ!その通りだやっと気づいたか!」
そんな高笑いが何処からか聞こえた。
「ダンスレッスン室からです!」
つぼみの言葉に全員がレッスン室目指して駆け出した。
レッスン室はこのスタジオで最も広い大ホールだ。 |